恋したくなる!!海物語:1年の終わりに 「君はトモダチ」前編/横浜クルージングパーティー



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1年の終わりに 「君はトモダチ」 前編

男の脳で女性のキモチを完璧に理解する。
これって東大に受かるよりもハーバードに受かるよりもはるかに難しいのではと感じるときがある。
どうだろう。
実際、東大もハーバードも、まったく縁の無い人生だから比べようがないけれど、恐らくこの難問、いつの時代になろうとも解くことが出来ない人類最大のパズルのような気がしてならないのだが。
しかし男という生き物は、時として目の前に立ちはだかる難問に強い衝動を覚え、そして激しい挫折感を味わう。臆病になりながらも掻き立てられる冒険心は、子供のころ感じた未知なる世界への探求心と同じものなのかもしれない。
大げさかもしれないけど、恋愛ってやつも男にとっては未知なる世界への大航海。
荒波と凪の状態を繰り返しながらたくましくなっていく。
船出するもしないも、自分の船を大きくするもしないも自分次第。
少々キザっぽくなったが、僕自身、そんなことをつくづく感じる一年だった。

僕は都内のカーディーラーで働く34歳。
人生という大海原で、悩み、つまずき、研磨され、ようやく「大人」というカテゴリーに違和感を感じなくなったところ。日々身を粉にして働く中で「人並み」を知り、平均値を維持する大変さも知った。自分の位置を正確に把握し、今の少し上を目指す意識の芽生えこそが賢くなった30代の自分自身だ。しかもこの不景気。なるべく冒険をしない生き方こそが必要不可欠だと思っている。
しかしどこまで冒険を避けるか。
これが実に難しい。
人生には避けては通れない冒険の時があるからだ。
僕にとって一番近いそれは結婚。
冒険心と保身という相反する作用のせめぎ合いを無視しすぎたかもしれない。
きっと同じ世代の男性があちこちで頭を悩ませているであろうこの問題。
僕には付き合って6年にもなる彼女との将来を真剣に考えるべきだったのかもしれない。
彼女からのシグナルを感じていなかったわけではなかったが、なかなかキッカケをつかめずに時間ばかりが過ぎていた。
とにかく目の前のすぐ上を掴むべく仕事に勤しんだ。
そしてその成果が実った時、同時に犠牲になったものはプライベートだった。
ありがちな話だが、バランスを取るのって本当に難しい。

「他に好きな人が出来た…」
あの日のハンバーグほど胃にもたれたものは無かった。

久しぶりに味わう独り身の気楽さ。
気が楽と捉えるか、心に隙間が出来たと捉えるか。
それは日によっても時間によっても違っていたが、いずれにせよ自然と同僚との飲みが増え、夜の街に長居することも多くなっていた。

そんなある日のことだった。
高校時代の親友コウジがバイク事故で入院との知らせが入った。
幸い足の骨折程度で命には別条なし。
心配したが元気そうだと知り、安心して休日見舞いに行ってきた。
それにしてもコウジは退屈そうだった。
病気ではない人間にとって長期入院は苦痛そのもの。
いい休養だと言いつつも、流石にもうお腹いっぱいといった感じだ。
「最近担当の看護師変わっちゃってさぁ。ホント楽しみも無くなっちゃったよ」
同じく独身のコウジにとって、入院生活唯一の楽しみは、若い担当看護師の看護と世間話だったらしい。ベテラン看護師の手際良さなんか正直どうでもいいとさえ言っていた。
「俺も別れちゃったしな。今度女の子とでも飲むか!」

それから二カ月後。
コウジの退院祝いも兼ねて品川で飲むことになった。
暇な入院中、コウジはFaceBookで高校時代のクラスメイトと繋がったらしく、当時仲良かった連中が久々に集まった。
その中にシオリの姿。
高校時代、片思いしていた女友達だ。
「久しぶり!全然変わってないね」
懐かしいシオリの笑い声を聞いた時、一瞬にしてあの日の気持ちが蘇った。

シオリと僕は高校2年3年のクラスメイト。
いつも笑顔で元気なシオリは、正直美人タイプではなかったが一緒に居て気を使わないタイプ。会話も盛り上がり、いつも時間を忘れるほどだった。席も隣で、放課後公園で喋ったり、休日数人で遊びに行ったりと何かと近い存在。一緒に過ごす時間は確実にトモダチ以上の感情をもたらし、気付けばシオリを目で追っている自分がいた。
しかし思春期というものが邪魔をした。
僕は女子校の文化祭で知り合った一つ下の女の子に告白され、そのまま付き合ってしまったのだ。
行動と本音のチグハグさ。
僕とシオリとの間に微妙な距離感が生まれ、しばらくしてシオリが予備校生と付き合ってると知った時の言いようのない焦りを今でもよく覚えている。
素直になれなかった自分、当て付けで年上と付き合ったシオリ。僕の勘違いかもしれないけど、もどかしい青春時代の構図が懐かしかった。

「せっかくの再会だし、これ機会にたまには飲もうよ!」
過去と今とを往復している僕の気持ちなど知らないと言わんばかりに満面の笑顔のシオリ。
昔より少し太った感じもしたが、僕を覆うあの頃の記憶と感情のせいか、今のシオリは色気があって、包容力があって、更に魅力的に映っていた。

数日後、シオリからメールが入った。
「お母さんが車買い換えたがってるんだけど、ケイスケって車屋さんって言ってたよね。色々教えて欲しいなぁ」

彼氏いるとか言っておきながら僕にメール。
やっぱり女性の気持ちは分からない。
そう思いつつ確実に喜んでいる自分を否定することも出来なかった。
6年間付き合った彼女と別れ。これもきっとこの再会の為かも知れないとすら感じたりもした。
しかしもういい大人だ。
大冒険したがる自分もいるにはいるのだが、それよりも成り行きを見守り、手堅く最小限のリスクで済ませたいという自分の方がはるかに大きかった。
盛り上がり過ぎず、盛り下がり過ぎず…
今年だけで二度も遭難だなんて身が持たない。
僕は冷静にお母さんの目的や好み、予算などを確認していくつか車種を絞って提案してみた。
しかし僕もシオリもどこかメールが途切れない様に言葉を選んでいるかのようだった。
チャット感覚のメールラリーがしばらく続いた後、ついに僕はこう返した。
「今度横浜のお客さんの所に行く予定があるんだけど、シオリ、職場横浜とか言ってたよね。久々メシでもどう?」
ずっとこれが言いたかった。
距離を縮めることは自分の首を自分で絞めること。自殺行為と知りつつも躊躇していた自分に決着をつけた。

「じゃ、今度の金曜。20:00横浜で」