恋したくなる!!海物語:Adiós! Verano… 〜夏の風がくれたもの〜後編/横浜クルージングパーティー



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Adiós! Verano… 〜夏の風がくれたもの〜後編

またいつもの日常が巡ってきた。
ランチの帰り、トンボが目の前を飛び季節の移り変わりを感じた。

「秋かぁ。」

任されたレジャー雑誌の仕事は想像以上に忙しく、取材終了後もチームリーダーとして人一倍働かなくてはいけない日々。
心身共に疲れきっていて思わず弱音を吐きたくなる仕事の連続だったが、今思うとこの時ばかりはそれが杏子にとって一番幸いなことだったらしい。
ほっと一息つける今、心の隙間に必ず現れる島田の姿。
結局時間ばかりが前に進んでいて、心はあの日のままだった。

早くなんとか今の時間に連れて来なくっちゃ!

しかし考えようと焦ろうと1日という時間は無情に一定。
ある人からすればそれは短く瞬間的でも、今の杏子はそれがものすごく長く重たいものだった。

だから恋愛感情なんて要らないって言ったのよ…

過去仕事で交わした島田とのメールを読み返しながらそうつぶやいた。
無性に真里に会いたくなった。
無性に潮風にあたりたくなった。

「ゴメン。真里、今週空いてる?」

親友の真里は大学時代の親友。
お互いそれぞれの恋愛を見つめてきたよき理解者。
返信はすぐに返って来た。
「分かった。明日20:00カタルーニャで」

真里は知っていた。
杏子は強くてもろい女。
誰よりも寂しがり屋のくせに素直になれない女。
性格も考え方も違う友達だけど、だからこそカバーし合える時がある。
辛い時はお互いさま。
自分が離婚問題でボロボロな時期、よくここカタルーニャで遅くまで飲んだ。
真里にとっても杏子だけが本音を吐き出せる相手だった。

日付変わって時刻は20:30.
11歳年下のフリーカメラマンに恋してしまった話を、真里は表情一つ変えず聞いていた。

「今の杏子のままじゃこの先もきっと同じかも。」
真里の言葉が重かった。
人は都合の悪いことを聞きたがらないものだけど、
時には耳の痛いことを言って欲しいときもある。
答えとか解決方法を知りたいわけじゃない。
背中を押して欲しいだけ。
あまりにシンプルな答えを前に躊躇する自分を押して欲しいだけ。

島田に思いを伝えるということ。

カタルーニャのマスターがサングリアを差し出した。
いつもより酸っぱさが舌に沁みた。
「人ってさぁ、大海原に浮かぶ船みたいなもんじゃん。
いろんな港に着岸してまた海に出て…。
航海の規模って人それぞれ違うけどさ、必ず船って港に戻るんだよ。
でも今の杏子、海に出っぱなし。
それじゃ誰だって錆びちゃうよ。
港探しだと思って食事誘うなり、思い伝えるなり、何かしなくっちゃ」

真里は離婚という荒波を乗り越えて、今はクルージングパーティーで知り合った男性と穏やかな航海を楽しんでいる。
そして時には港に戻り陸から海を眺めている。
港かぁ…
タクシーの車窓。流れる夜の街。
「運転手さん、行先変更してください。横浜まで」
杏子は島田と取材に行った港近くのバーの前にいた。
そしてケータイの発信ボタンを押した。

「こんばんは。お久しぶり。覚えてるかなぁ。小林です…」

電話なら震える指もぎこちない笑顔も見られずに済む。
お酒の力にさえ甘えられなかった自分だけど、今日この時は思い切りよりかかってみた。

「もちろん!覚えてますよ。
まさか杏子さんから電話来ると思わなかったなぁ。
ありがとうございます。
僕も何度かご連絡しようとしたんですが・・・」

島田は別れた彼女と最近寄りを戻していた。
その事実を知った時、落胆が全身を駆け巡った。

「そっかぁ、彼女がいるならお酒、誘えないなぁ」

精一杯のトーンが夜の街に響く。
少々ぎこちない会話に一瞬気まずさが漂うも、30分程他愛もない話をしているうち、またあの夏の頃の感覚が蘇ってきた。
ただ違ったのは、今までそこにあった恋愛感情というものが徐々に薄まり、確実に過去のものへと消化している感覚。
初めてかもしれない。

そして勇気は光も残してくれた。
実は島田もあの仕事の間、杏子に思いを寄せていたということ。
多忙を極める杏子を案じ、このプロジェクトが終わるまで邪魔をしないでおこうという島田なりの大人の気遣いを知った。

島田、ありがとう。
幸せになってね。
Adios, verano!
今、心からそう思えた。

カタルーニャで飲む真里の横顔は笑っていた。

「人の心って移りやすいのよね。特に片思い期間中はさ。」

杏子を思いながら元カノと寄りを戻した島田。
恋愛の喜びを再確認しクルージングパーティーで幸せを見つけた杏子。

繊細な大人の恋愛模様を、一足先に船上プロポーズされた真里は余裕の表情で眺めていた。

「そうだ!4人でクルージングしない?
マリアージュ号っていうクルーザーチャーター出来るんだけどさ」

女ゴコロと秋の空。

気まぐれな恋心だけど、今は杏子をまっすぐ見る一磨との時間が一番幸せ。
恋に年齢なんか関係ない。
「ただ一緒にいたい…」
お互いその気もちがあればそれ以上説明も要らない。

奇しくも一磨は島田と同じ歳。
杏子の11歳年下の彼。

あの高台にある白壁のスペインレストラン。
テラス席で海を眺めながら真里は意地悪に質問した。
「あの時のこの場所に戻りたい?」

答えはYESでもNOでもない。
ただ思い出は思い出としてキレイなままにしておく方がいいみたい。